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【書評】「ソロモンの偽証」の感想(ネタバレ注意)

   

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

こんにちは、くるみです。

映画化されたことで話題になっている、宮部みゆき「ソロモンの偽証」。今日は、映画ではなく小説を読んでの感想をお伝えしたいと思います。

映画になったのは2015年なので、最近の作品かと思いきや、「小説新潮」で連載が始まったのは2002年。けっこう昔なんですよね。連載はそれから2011年まで10年続き、2012年に刊行、そして文庫になったのは2014年です。

10年間も連載されただけあって、長い。とにかく長い。単行本は分厚いのが3冊で、文庫に至っては6冊になっています。まあ、それを一気読みさせるのが宮部みゆきなんですが。

(※ここから先は多少のネタバレがあります)

「ソロモンの偽証」の登場人物の多さと裁判への持って行き方がすごい

こんなに長いと登場人物も相当の数になっていて、表紙の裏にはご丁寧に人物相関図が載せられているほどです。登場人物が多いから長くなっているとも言えると思います。裁判のためにはかなりの人数が必要になるからです。

学校で生徒たちが裁判を行う。それも、学級会の延長みたいな規模ではなくて、警察や外部の人間も巻き込んで、これだけの人数でもって実際の裁判の形式に則って行うのです。

およそ現実的ではなく、まあ小説の中だからね、となってしまうような都合の良い展開を許さず、登場人物に葛藤させながらそれぞれの理由で「裁判やらなきゃ」「裁判やりたい」という気持ちに向かわせていく。

裁判まで持って行くのに3冊中1冊まるごと割いているので、それだけ手を抜けない所だったんだなと思います。

「ソロモンの偽証」で私が共感できる人、できない人

主要人物については、親と子の関係性が詳細に描かれています。それが裁判へ向かう動機にもなっていくんですが、なかなか良い親子関係と言えず、子は傷ついているけれど親がそれに気づかないという家庭に私は胸を締め付けられました。

柏木宏之、野田健一、三宅樹里の3人です。

親に愛されていないわけではないけれど、どこか雑に扱われている。親は子どもに繊細な心があるなんて思いもしないし、親のせいで傷ついているなんて気づきもしない。そんな3人です。

自分の子ども時代の姿が重なり、ヒリヒリする切ない感情がこみ上げてくるのです。

柏木宏之について

特に柏木宏之。病弱なふりをしている卓也にばかり手をかけて、兄のことは二の次三の次にしてきた両親。わかったようなことばかり言う父親。卓也をやったのは宏之ではないかとまで言い出す母親。

それなのに宏之は両親を憎めないんです。そんな親、とっとと見離して、放っておけば良いのに!と私は何度もハンカチを噛みたくなりました。

ただ、裁判に肩入れして出しゃばりすぎる宏之のあの姿勢には違和感を覚えました。何が彼をそうさせるのか腑に落ちません。宏之がちょっと残念な人になってしまっていました。

最後に柏木両親が真相をどうとらえたのかはわかりませんが、結局両親は卓也のことをぜんぜんわかっておらず、騙されていたとも言えるので、それが暴かれて胸がスッとした所はありました。

野田健一

野田健一は準主役と言っても良いくらいの存在だと思うのですが、冴えない人を演じていて、実際冴えないことを自覚している人。

平凡に見えて実はすごく賢くて立派なんですが、学校内のヒエラルキーの問題から担任の森内先生や主役の藤野涼子に見下されていて悔しくなります。

親に気を使って親に振り回されて、親の命をおびやかそうとするまで追い詰められて、親のせいで子どもが犠牲になるというのは、本当にいけないなと考えさせられます。でもそこから立ち直り、裁判を通じてどんどんたくましくなっていく姿には、がんばれ!と心から応援したくなる気持ちになりました。

三宅樹里について

三宅樹里は、性格がひん曲がっていて自意識過剰で、ひねくれた考え方や行動には、そりゃあむかつきます。むかつくんですけど、見ててイタくなってきてしまうのは、きっと中学時代くらいの自分の一部を三宅樹里の中に見るからなんです。

あそこまで行くとさすがにオーバーですが、思春期はニキビやどうでもよいことに悩み、それを親に理解してもらえず苦しみ、孤独で。

「みんな言わないだけで同じだよ。大丈夫。大人になったら大丈夫。」と心の中で声をかけながら読み進めていくうちに、考えが足りなくて打たれ弱い三宅樹里にムカつきながらも応援している自分がいるんです。だから最後彼女が救われた事には本当に良かったと思いました。

それに対して、藤野涼子。美人で頭も気立ても良く家庭環境にも恵まれていて、それを自覚している中学生。

いわゆる完璧な女子なわけですが、完璧すぎて、全然感情移入できないんです。彼女も彼女なりに苦悩するのですが、全く共感できないし、応援する気も起きない。私のようないい大人が、ほんの中学生に対して大人げないとはわかっているんですが(笑)。

こういう子いるよね、という風には全然ならないです。でも裁判の言いだしっぺである以上、彼女は正義感あふれ誰からも愛され誰もが味方になるようなキャラクターでなければならず、ここまで完璧な子になってしまったのも仕方ないことかとも思います。

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「ソロモンの偽証」のこれは必要だったのか?と思う疑問 その①

それにしても宮部作品では、こんな良い人が亡くなっちゃうの?ということがよくあります。

「ソロモンの偽証」では、浅井松子がそれでした。「模倣犯」の高井を彷彿とさせます。

たかられて利用されて、
挙句は罪を着せられる高井。
それでも友だちを思い続ける高井。
なにも悪くない高井。

「模倣犯」を読んだ時も、高井のそれには衝撃を受け「マジかよ」と頭を抱えましたが、浅井松子も同じでした。松子がいなくなることで、告発状の真相は外に漏れないという状況にはなりましたが、それだけのためにというのは、いくらなんでもかわいそうすぎる気がします。

「ソロモンの偽証」のこれは必要だったのか?と思う疑問 その②

もっと、「これ、いるのかな…」と疑問を持ったのは、垣内美奈絵です。

いりますか?あれ。

色々な伏線が絡み合っていくのは面白いんですが、垣内美奈絵の一連の関わりだけはなくても良いような気がするのは私だけでしょうか。

モリリンこと森内先生に、八つ当たりで嫌がらせを繰り返す、マンションの隣人。

宮部みゆきは教師の持つ軽薄さや、えこひいきをする汚さを暴いていますが、それに対する森内先生への罰だったのでしょうか。生徒たちが裁判をしたいと思う動機を強くするために、森内先生をおとしめておくことが必要だったのでしょうか。

それにしてはとってつけたようですし、話が余計にこんがらがるだけで面白くはなっていないんですよね。最後に学校に謝りに来るのも意味わからないですし。三宅樹里が自分を省みる材料にするため?うーん、垣内美奈絵の位置づけがよくわかりませんでした。

「ソロモンの偽証」の真相について

私が宮部みゆきをいいなと思う理由のひとつは、余計などんでん返しがないことです。

ミステリー小説とかで、「それ意味あるか?」と思うようなどんでん返しがたまにあったりしますが、私はそういうのいらないと思うんです。宮部みゆきにはそれがない。だから、「ソロモンの偽証」も結末はある程度は見えていました。

ただ、神原和彦が柏木卓也を突き落したなら逮捕ものだし、どういう風に落ち着くんだろうと思っていたら、柏木卓也が飛び降りる直前までそこにいた、というスレスレな所。

真相は神原和彦の自白というか、証言に拠っているので、彼のキャラクターが全てを握っていると言っても過言ではないくらいなのですが、どうも神原という人物が見えないのです。

もともと過去が壮絶すぎるのと、ずっと心情が語られないまま最後の最後で初めて胸の内を明かすという形のため、徐々に彼について理解していくという工程を踏めないので、イマイチよくわからない人のままなのかなと思います。

神原と柏木の友だち関係も、柏木の心情も、神原が自分の生い立ちに関わる場所をまわって柏木に電話をかけるというエピソードも、「うーん、そうなの?」くらいにしか迫ってくるものがなく、柏木の死の真相もぼんやりしてしまっています。

裁判そのものが大事なのであって、真相はこの程度ぼんやりで良いという宮部みゆきの考えなのかも知れませんが。

でも、分厚い単行本を3冊読み終えたにしては「読んだー!」という爽快感がなかったのも正直な所です。

終わりに

本編では、裁判後のことは書かれておらず、野田健一の将来しかわかりませんでしたが、文庫版の最終巻に載っている「負の方程式」という中編には、20年後の藤野涼子が出てくるらしいので、それも読んでみたいと思っています。

映画も見たいですが…小説が長ければ映画も長いんですよね…。ちょっとした覚悟が必要そうですが、時間を作って是非挑戦したいと思います。

 

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